NFT、ブロックチェーン、メタバース・・・
少し前からよく耳にするこれらのキーワード。Web3.0に興味を持ちつつもなかなか理解を深められていない方も多いのではないでしょうか?
むしろ、得体の知れないものに対する、嫌悪感に似た感情を抱いている方も少なくないはず。私もそんな一人でした。
2年間の準備期間を経て本格的な風の時代がスタートすると言われている2023年。
かたちあるものを重んじる物質主義だった土の時代から目に見えない物の価値が認められスピードとテクノロジーが重要視される風の時代へ。
その象徴的な存在がNFTやブロックチェーン、メタバースなどではないでしょうか。
2021年に突如巻き起こったNFTブームもバブルが崩壊してその熱も冷めつつある今だからこそ投資目的ではなく、冷やかしでもない、これからはしっかりとNFTの本質に光が当たっていく時代になると言われています。
そこでAkira Art Roomでも本格的にNFTアートを取り扱うにあたり、まずはNFTについてもっとわかりやすく、もっと身近に感じることができるように、嫌悪感からちょっと気になる存在へ軽やかなイメージチェンジを目指してこれから数回に渡りブログに関連記事を更新していきたいと思います。
Beeple Everydays - The First 5000 Days 出典=クリスティーズのウェブサイトより
デジタルアートに75億円?
2021年3月、老舗オークション、クリスティーズに出品されたある作品が大きな話題となりました。
アメリカのアーティストBeepleによるデジタルのコラージュ作品で落札価格は6900万ドル、日本円で約75億円だったとか。
このニュースを耳にしたことがある方も多いのではないでしょうか。
いわゆる壁に掛けて鑑賞するような「形のあるもの」ではなく、画像ファイルつまり「デジタルアート」でJPEG画像の状態のものにNFTを発行したものです。
タイトル「Everydays: The First 5000 Days」
その名の通り、5000日(13年)間、毎日描き続けた絵を一枚の画像としてコラージュしたそう。日本ではその驚異的な落札額ばかりに話題が集中して落札者やこの作品を作ったアーティストなどこの1枚に携わった2人のストーリーがあまり紹介されていないのでNFTアートの本質に迫るステップとしてまずはここから掘り下げていきたいと思います。
落札者はミニマリスト
落札者は、NFTプロダクションであり世界最大のNFTファンドである「Metapurse」の創設者ビグネシュ・スンダレサン(Vignesh Sundaresan)別名メタコバン(Metakovan)という名で知られるインド人。インタビュー動画を見ると至って普通の好青年でした。
2013年にブロックチェーン関連企業を立ち上げた起業家でシンガポールの一般的な賃貸住宅に住み、車や従来の銀行口座を持たず暗号通貨だけで生活しているという。
質素なインテリア。リアルの世界では堅実派。
落札したBeepleのNFTアートをバーチャルの世界で鑑賞中!
メタコバンはこの落札について、「高額なNFTといえばこの作品をおいて他にはない。その理由は13年間の日々の仕事の成果を表しているからだ」とコメントを発表。「技術は再現可能だが時間だけはデジタルでハックできない。この作品こそがいまの時代においてもっとも価値のある芸術作品であり、10億ドルの価値がある」と述べています。
印象的だったのがどのインタビューでもとにかくアーティストが13年間5000日、毎日欠かさず作品を描き積み重ねてきた姿勢に純粋に心が動かされたと表現していたこと。
アーティスト、ビープルは実は絵が苦手
2007年5月、ビープル(Beeple)として知られるデジタルアーティストが、自身の技術向上のため毎日新しい作品を制作し、オンラインに投稿することを決意しました。
以来、彼は1日も欠かすことなく、5,000日連続で毎日新しいデジタル絵画を制作。これらの作品はそれぞれ「EVERYDAYS」と呼ばれ、その集大成として「EVERYDAYS.THE FIRST 5000 DAYS」が完成しました。
記念すべき5000日の初日投稿(2007年5月1日)の一枚。
Uber Jay というニックネームを付けたジムおじさんの写真。
5000日目(2021年1月7日)の一枚。
初期の写真と後の写真の顕著な違いは、ビープルが芸術家として大きく進化したことを示しています。プロジェクトの開始時には、簡単な手書きドローイング。やがて3Dを取り入れ作風に大きな変化が生まれました。
こうして見ると毎日の積み重ねの偉大さがよく分かります。
メタコバンはビープルの5000日に渡る積み重ねがNFTというブロックチェーン技術を基盤とした新しいテクノロジー上に刻み込まれていることに大いなる価値を見いだしていたのではないかと私は思っています。
コピーし放題 - 「売買」が難しかった今までのデジタルアート
デジタルアートはまったく同じものが簡単にコピーできるため、一点物の絵画のように、値段をつけて販売することが困難だと思われていました。
そんなデジタルアートの問題解決に登場したのがNFTという新しいテクノロジーです。
「NFT」とはNon-fungible Token(非代替性トークン)という新たな認証技術であり作家が自身の作品に付ける「証明書」のようなもの。
ビットコインやイーサリアムなどの暗号資産に使われるブロックチェーンという技術を応用したもので、作品データそのもののコピーを防ぐことはできませんが、NFTはコピーされません。そのため、特定の作品だけをオリジナルとして販売することができるようになったのです。
そしてNFTを発行することで誰がいつ制作したものか、現在所有している人は誰かがわかるようにもなりました。
また二次流通といって所有者が作品を手放した後、誰の手に渡ったか、という繋がりの記録も証明されるようになりそのことで作品の価値を世界中の人と共有できるというのがNFTのもつ大きな意味合いでもあります。
デジタルだけどそこにはちゃんと人が存在していて温かさのようなものが感じられて、そして簡単にコピー&ペーストできるデジタルの世界だからこそ信頼性を保ちながら作品に対する付加的な情報を残すことが大事であり、NFTはそこに大きく貢献しています。
なかでも特に重要なのがアーティストが作品を作ったときの状況や意図といったストーリー。そしてその作品を誰がいつ、いくらで購入して次にだれに受け継がれたか・・・といった具合に情報が次々と蓄積されていく。
それがあることでデジタルデータが単なるJPEG画像でなくなり、そこに実存のようなリアルが生まれる。
以上が大まかなNFTの持つ本質と捉えていますがいきなりそんなことを聞いてもおそらくほとんどの人が腑に落ちないと思うのでデジタルアートではなく、実際のリアルアートのケースで考えていきましょう。
本物の持つ魅力とは? モナリザの絵から検証
時代を超えて人々から愛され続けるモナリザの絵。現代の進化した複製技術でモナリザの美しいポストカードは安価で手に入り、等身大に複製したレプリカ画を飾る美術館もある。1クリックで無料の高解像度のコピーにだって簡単にアクセスできる。
それでも信じられないほど多くの人々が本物のモナリザを実際にみるために世界中からルーブル美術館を訪れる。
なぜでしょうか?
本物にしかだせない絵画そのものの光や質感を感じられるから、というのもひとつの答えかもしれません。
でもそれ以上に私たちは潜在的に本物に対する敬意を払っているからではないかと思っています。この作品がどんな経緯を経て作られ、なぜルーブルにあるのか。
これは完璧な複製であっても作り出せない本物だけが放つ不思議なオーラ。
作品の歴史は本物の前でしか感じることができないのだと思うのです。
おそらく同様の感覚を覚えた方も多いのではないでしょうか?
リアルのアートにおいて、真正性とは大まかにいうとそこに歴史がしっかり存在しているか否かだと思うのです。
あらためてNFTについて考える
さて、モナリザの例である程度本物の持つ価値を感じていただけたでしょうか?
本題のNFTに戻ります。
これまでリアルのアートに限り、その歴史や背景を感じていたものがNFTという新しいテクノロジーのおかけでデジタルアートがその主張ができるようになり、真正性をリアルアートと同様に証明できるようになりました。
とは言いつつ、頭では理解できても実際にルーブル美術館のモナリザとNFTが発行されたデジタルのJPEG画像のモナリザを両方とも本物として見ることができるか?と言えばおそらく答えはノー。
これはすべて私たちの感じ方におけるシフトに依存しているのでそのシフトは現在進行中であり一定数の人がNFTが発行されたデジタルのアートを本物として見ることができるようになるのはもう少し時間が必要かもしれません。
それはNFTの基盤となるブロックチェーンテクノロジーに対する評価の高まり次第によるでしょうし、ブロックチェーンにまったく馴染みのない私たちにとっては今の時点ではかなりハードルが高くて当然です。
ここで冒頭のビープルのNFTアートを75億円で落札したインド人、メタコバンの発言を改めて引用してみます。
「高額なNFTといえばこの作品をおいて他にはない。その理由は13年間の日々の仕事の積み重ねを表しているからだ。技術は再現可能だが時間だけはデジタルでハックできない。この作品こそがいまの時代においてもっとも価値のある芸術作品であり、10億ドルの価値がある」
さらに価値の根拠として、
「デジタルだからとか、NFTだからとかではなく、皮肉なことに、現代においてハッキングできない唯一のもの、つまり時間を象徴しているからだ。「The First 5,000 Daysは、アーティストの13年間の仕事、絶え間ない仕事を、一つの巨大なガナッシュに凝縮したものだ。」
つまりメタコバンはアートとしての価値にプラスして13年を超える歳月で作られた作品の集大成と歴史、その積み重ねの価値をNFT化されたデジタルアートの中に見いだしており、それはまさにアートの価値を決める真正性。
だから彼にとってはこれはただのJPEG画像ではなく偉大なる一枚になっているのでしょう。
要するに私たちがNFTを単なるJPEG画像ではなく、いかに本物であると感じることができるか否かは今まではなし得なかったデジタルの世界に歴史や人間味のある繋がりを感じることができるかにかかっているのではないかというのが現時点での私の捉え方です。
Akira Art RoomでNFTアートを取り扱うならそんなデジタルアートがふさわしいと感じています。
次の投稿ではそんなデジタルアートをご紹介していく予定です。
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