アーティスト紹介 蔡長煌(Chang Huang Tsai)
- Akira Art Room
- 2 日前
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この度、Akira Art Roomでは水墨画の取り扱いをスタートすることになりました。
何百年も受け継がれてきた水墨の技法と、現代の私たちの暮らし。そのふたつが出会うとき、どんな景色が生まれるのか。Akira Art Roomに新たに加わった台湾のアーティスト、蔡長煌(Chang Huang Tsai)の作品を通してご紹介します。
水墨画ってこんなに自由だったの? - 蔡長煌のユーモアあふれる世界!
水墨画と聞くと、どんなイメージを思い浮かべますか?
墨一色の厳かな山水画、美しい花鳥風月・・・。どこか「古典的で難しい」という印象を持つ方も多いかもしれません。でも台湾の若手アーティスト、蔡長煌の作品に出会うと、その既成概念が一気に覆されますよ!

蔡長煌, 有錢能使鬼推磨-請掃QR Code 36x76cm
彼の水墨画には、ユーモアと遊び心がたっぷり。
こちらの作品は「お金があれば鬼だって臼をひく」(地獄の沙汰も金次第)――そんな古いことわざをユーモアを交えて現代にアップデートしました。かつては「お金さえあれば何でも解決できる」と言われました。しかし今の時代、お金では本当に人や世の中を動かすことはできない…という鋭い視点をQRコードというデジタルテクノロジーを例にあげて表現しています。

仙人が鬼に貨幣を渡し、臼をひいてほしいとお願いしているシーン。
それに対して鬼の返答はー
「QRコードをスキャンしてください。」

この作品は、伝統の水墨画に遊び心と皮肉をひとさじ加え、デジタル時代を映す新しい風刺画として「古典と現代の橋渡し」とも言える一枚です。ちょっとだけ水墨画との距離が縮まった気がしませんか?

蔡長煌, 歳朝清供図 36x76cm
「歳朝清供図」とは、新しい年の朝に清らかな花や器物を飾り、幸せを祈るために描かれたお正月用の水墨画のこと。花瓶の中に広がる、もうひとつの世界が見えますか?これは「瓶中天」と呼ばれ、壺や花瓶の中に理想の世界を表すモチーフで、日常のなかに宿る宇宙や心の豊かさを象徴しています。伝統的な題材でありながら、蔡の筆によって軽やかでモダンな空気が宿りました。来たる年に幸せを招き入れてくれそうな一枚です。

水墨画と夢の関係
水墨画は「空白」を大切にする芸術です。その余白は単なる空白ではなく、観る人の想像力を受け止める「夢の入り口」のようなもの。輪郭がはっきり描かれた絵画とは異なり、墨の揺らぎや余白によって生まれる曖昧さが夢うつつのような世界を生み出します。

蔡長煌, 玉堂富貴図 45x35cm
昔の人々は、牡丹・玉蘭(マグノリア)・海棠(かいどう)を組み合わせて描き、これを「玉堂富貴図」と呼びました。良きことを祈るための画題としたのです。こちらは蔡長煌が幸せを託し、描いた牡丹。ドラマチックに艶やかさを描くより、この花の持つ軽やかな清々しさを大切にしたくて水墨の滲みで花の姿を浮かび上がらせました。伝統とモダンと蔡のパーソナリティが響き合う一枚は透明感たっぷりで私のお気に入りの一枚でもあります。

文化的価値と現代性
水墨画は台湾や中国の長い文化史の中で育まれた表現ですが、蔡の作品は伝統に留まらず、現代の私たちにも響く普遍性を持っています。それは単に「東洋美術」としてではなく、「人の内面と夢を映す鏡」として世界中の人に開かれているからかもしれません。
Akira Art Roomではこのような水墨画を単なる装飾品ではなく「文化を体感するアート」としてご紹介したいと考えています。夢と現実の狭間を漂うような蔡の作品は私たちの暮らしに静けさや余韻を与えてくれる存在であり、墨の濃淡や滲みの中に観る人それぞれの記憶や夢が重なり合い、心の奥にある「夢の中の真実」に触れるような体験をもたらします。
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